An introduction
#1-1: はじめに
現在でも数多くの人々から愛され続けているVINTAGEスウェット。それらは1940年代後半から1960年代中盤にアメリカで作られたものです。生地が「ループウィール・マシーン」=日本語で「吊り編み機」で作られてるから風合いが長持ちするのです。しかしこの編み機は1時間に1メートル程度しか生地を編めません。現代となっては非効率的な機械なのです。いま世に出回っている殆どのスウェットはシンカー編み機と呼ばれる大量生産向けの高速編み機によって生地が編まれています。更にアメリカではもう吊り編み機がありません。どこを探しても世界中で吊り編み機で裏毛を編めるのは日本の和歌山だけなのです。
Loopwheel machine
#1-2: 吊り編み機について
吊り編み機の生産効率については、これまでにLOOPWHEELERでは「1時間に1m」と解説して参りましたが、この1時間に1mとは吊り裏毛の生地の生産についての数値なのです。当然編む生地の組織によっても生産速度は変化します。ポロシャツに使われている吊り鹿の子の生地は1時間に 0.3mしか編めません。それに比べ高速のシンカー編み機では裏毛で10m以上、鹿の子では3m以上も編むことができるのです。そのため経済発展を遂げる大量生産の時代に吊り編み機の数は激減しました。
Knitting in Wakayama
#1-3: 和歌山で生地を編む
昔は<*1>丸編工場が軒を並べて日本一栄えた街だった和歌山。現在その和歌山で吊り裏毛が編める工場は2社しかありません。カネキチ工業株式会社と和田メリヤス株式会社です。今回は再度カネキチ工業さんに訪問しましたので、その作業の様子を拝見しながら生産の行程を解説させて頂きたいと思います。
<*1>ニット編み機には大きく別けて丸編み機と平床編み機の2種類があり、吊り編み機は旧式の丸編機の一つです。カットソー向けの生地の生産には多くの場合は丸編み機が使われるのでスウェットの生地の生産依頼の殆どは丸編み工場に出されます。 画像の吊り編み機は部品取り用として倉庫に保管される状態です。
Yarn rewinder
#1-4: 生地を編む前に
糸を吊り編み機にかけるために紡績糸を巻き代える機械です。巻き代える際に糸の表面に薄くワックスが付着します。こうして糸の滑りを良くする事で編み立て時に生地に編み傷がでたり、糸が切れたりする所謂「編み不良」の発生を防ぎます。
In the factory
#1-5: 編み立て現場
これが実際に生地を編んでいる現場です。既にご承知の通り吊り編み機は毎分24回転しながら生地を編んでいます。計算してみるとわかるのですが...非常にゆっくりとした回転です。糸に「余分な力=テンション」がかからず、非常に糸がリラックスした状態で生地が編まれるので、糸そのものの柔らかな風合いがそのまま生かされた生地ができるのです。
編み機の口径は幾つかのサイズに分かれています。LWスタンダードはXSからS, M, L, XLの5サイズをそれぞれの身巾に適合した口径の違う編み機で生地を編む事により、身頃に脇接ぎの無い丸胴ボディを採用しています。
From the beam ceiling
#1-6: 天井から吊られています
吊り編み機は1本の動力から、ベルト、プーリーを介して動いています。よく見ると全ての編み機が天井から
蓑虫のように吊り下げられて設置されています。「吊り下げられた編み機=吊り編機」の由来はここから来ています。毎分24回転といいましたが、さらに重要なのは、糸が自重でのみ下がっていくこと。下からひっぱったり、余計な力をかけずに空気を含む様に編まれていく。この機械の特長がここにあるのです。
Sinker system
#1-7: シンカー編み機
「吊り編み機」と対象的なシンカー編み機。(画像) 世界的な経済成長の中、「モノ」が必要な時代、そんな背景からできてきた編み機です。今やアメリカや日本ではもちろん、全世界で主流にある丸編み機です。吊り編み機に比べ口径が広くて高回転。おおよそ毎分240回転し1時間に10メートル以上、約10倍の生産能力の違い、作業量の違いが機械自体にあります。更にメンテナンスが楽で人手もかかりません。しかし吊り編み機の様な柔らかな生地はできません。吊り裏毛と比べると最初は柔らかく感じても洗い込んでいくと「ごわごわ」になってしまい、3年くらい着たら、風合いが大きく変わってしまいます。
Milk bottle
#1-8: 牛乳瓶
この牛乳瓶の中にあるのは何でしょう? これは潤滑油なのです。牛乳瓶の上に白い布に巻かれた棒が出ていますが、浸透圧で油を少し吸って糸が通りやすいように滑りやすくして機械に入って行きます。昔から使っている機械を独自の手法で使い続ける...。カネキチさんで考えられたすばらしいアイデアだと思います。こうやって手間と人の手をかけていく...、今の時代に大切なことなのだと思います。
Grey fabric
#1-9: 生機
吊り編み機で編んだ生機(きばた)です。カネキチさんでの最後の工程です。1反で約22〜23メートル。スウェットにしたら17〜18人分くらい。しかし1日で編めるのは11〜12メートル(0.5反)、8〜9人分くらいしか編めないのです。できあがった生地は、このあと染工所を経て縫製工場へ送られます。
to the next production line
次の行程へ
以上ここまでは、紡績された糸が和歌山のニット工場で吊り編機によって編まれて生地になる迄を紹介させて頂きました。第2章 ORIGIN PT2では、その生地が縫製工場で製品としてできあがる迄の行程を解説致します。
画像はLOOPWHEELER福岡にディスプレイ中の吊り編機。次の行程へ進む